その手を放してくださる?
なんて彼女が言ったものだから、そりゃあ驚いた。だって君いつも、そんな風に話したりしないだろう?


「…、何か怒ってるのかい?僕何か君の気に障ることしたかな。」


僕が聞いてみると、は振り向いてにやりと笑った。
笑顔の向こうに青い空と高い山、そして黄金の森が見えた。イギリスはもうすっかり秋だ。冷たい風が強くなって…エディンバラのあたりじゃ、近々雪が降りそうだって。


「ううん、全然。ただの気分よ。」


でも手は放してね、と何故か嬉しそうに言われたので、僕は彼女の手を放して、『降参』のポーズに両手を挙げた。
はとても満足気に、軽い足取りで僕の前を歩き出した。きれいに刈り揃えられた芝生をさくさくと、彼女の履いている赤いパンプスが音をたてて進んでいた。
服や靴を選ぶとき、彼女は見た目だけじゃなくて、運命を信じていて、僕は最初それをばかにしていた。今は、少し「そうかも」と思う。けど、やっぱりまだばかにしてる。




「リーマス、これ。天上天下。」


は突然振り向いて、右手と左手で天と地を指差した。
僕は呆れてため息をつく。彼女は気まぐれで、わけがわからないことをたまにする。僕はそれが理解できなくて、あのね、と彼女を諭すのだ。君のやってることは、意味がわからないよ、って。


「分からないことはいいことよ。」


笑うのが好きで、歩くのが好き。彼女は不思議な人だ、いつもは普通にしっかりしているのに、時々子供みたいだ。


「私は時々孤独になるけど、リーマスの手を振り払っても、リーマスは待っていてくれるって分かっているから、凄く幸せなんです。ありがとう。」


彼女がこういう時、僕は何を言えばいいのか、どうしたらいいのか、全然わからなくなってしまう。つまり、緊張して。
ただ、彼女のことを全部覚えていたいという気持になる。またたきの回数まで全て。


はもう一度『テンジョウテンゲ』のポーズで目を閉じた。
風がくる。遠くの山の尾根を越えて。空がある。雲を乗せて。金色の森は燃えて、季節は秋。
僕がそっと手を取ると、は目を開けて頷いた。
そう、彼女の強さ。しなやかさ。
リーマス・ジョン、とが呼んで、はい、と僕は微笑んだ。


「この星は、二人のものよ。」










planet
































inserted by FC2 system