ホグワーツの広い中庭に植わっている街路樹は、冬になると金色の雨のようにその葉を落とす。 丸裸になった梢は、まるで繊細な影絵のように、水色の空にくっきりと浮かび上がって、きらきらと光っている。 「空からくる水脈みたいだな。」 俺がそういうと、は「毛細血管みたい。」とのたまった。 「おまえ、もうちょっとましな例え方出来ねぇのかよ…。」 げんなりとそう呟くと、は楽しそうに笑って、 「女生徒の憧れの的であるシリウス・ブラック君は、彼女達の期待通り、とびきりのロマンチストですのね。」 とぬかしやがった。 「なーにがロマンチストだ、お前のココロが乾ききってるだけじゃないか。」 つーかロマン云々以前の問題だ。もっと詩集を読むべきだ。 中庭のベンチに(寒い中、わざわざ)二人で座って、仰向けに梢を眺めていた。 隣のは、「ココロ、乾いてるかなぁ?それやだなあ。」と呟いてる。黒く長い睫を瞬いて、瞳が冬の薄い光を反射するのを俺は見た。 彼女は自分の格好というものにあまり頓着しない性質らしいけど、俺はにあまり化粧してほしくないな、と思っているので丁度よかった。 陽の光を弾く彼女の頬が好きだ。すべすべとしていて。 「毛細血管じゃなきゃ、神経細胞かもね。ニューロン。シナプス。」 彼女はベンチに背をそらして、冬の空気を吸い込んだ。 「だって、誰の身体にもあるもの。空に映る梢を見てると、地球も人間と同じで、こうやっていろんなこと感じてるんだ、って思う。私が私の神経細胞全部で、シリウスのこと感じてるみたいに。」 ね、私案外枯れてないでしょ?と屈託なく笑うから、俺はあわてて顔を逸らした。彼女は不意に笑う。不意にこういうことをいう。俺が内心どれだけ慌ててるかも知らずに。 「…例え方がへたくそ…。」 俺が憮然とした顔でそう返すと、はむっとした顔になって、それから呆れた風にため息をついた。 「女生徒の憧れの的であるシリウス・ブラック君は、彼女達の期待に反して、乙女心が分かってない。」 ぽとん、と落ちるようにそう呟いた。もう眉間に皺はよってはいないが、口を尖らせて少し寂しそうに目を伏せてる。 俺は少しぎくりとした。 「まあ別に構わないけどさ。」 彼女ははあ、と達観した様子で息をつく。もう梢を見上げてはいなくて、ベンチの上で体育座りをして、ちいさな膝の上に顎を乗せていた。 これは…俺は言わなきゃいけないのか?フォローしなきゃだめか? 傷つけたんだろうか、彼女を?もうちょっと優しくした方がよかったか? 色んなことが頭を駆け巡って、でもそれは結局全部たった一つのことについてなんだって、ちゃんと分かってる。 俺は腹を括って言葉をつむいだ。 「あー…。」 明後日の方をみながら呟く俺に、が振り返ったのが気配で分かった。 ごくり、と唾を飲み込む。(喉鳴るとこだった!かっこ悪い。) 「お前、割とかわいい…よ?」 「…。」 「…。」 何故反応が無い!? 人の決死の言葉を無視か!? 内心焦りと怒りと羞恥心でとんでもないことになりながら、かろうじてポーカーフェイスを装ってると、が「ふへへ。」とだらしなく笑うのが聞こえた。振り返ると、膝にこてんと頭を乗せて、嬉しげに俺を見上げてる。 「女生徒の憧れの的であるシリウス・ブラック君は、彼女達の期待に反して女の子慣れしていない。」 「…うるせえよ。」 「お顔が真っ赤ですことよ?」 そう言って、ますます嬉しそうにしてるから、もう俺は、どうしようもなくなる。顔が真っ赤だってことぐらい、分かってるさ。 「お前の所為だ、ばか。」 「うん、よーっく知ってる。」 嬉しそうに笑いやがって!腹が立つ! 1オンスノート |