窓枠に置いてあるレモンビールのビンが、陽の光に汗をかいている。一口、と思って手を伸ばしたら、ギアッチョに「動くな」と髪を強くひっぱられた。 「いたいいたい!そういうプレイも悪くないけど引っ張るなって!」 「髪切ってる間くらいじっとしてろ、ガキかテメーは。」 そう言って俺の背中をはたくので、仕方なく姿勢を正して前を向く。ギアッチョは、俺がケープの代わりに巻いているタオルを手で払って整えると、再び髪にハサミを入れ始めた。 時刻はまだ10時を回ったばかりだった。 南に向いた窓のそばにちょうど陽だまりのできる時間で、そこに新聞紙を敷き、背の高い椅子を二つ置いて、髪を切ってもらっている。 ギアッチョは時折レモンビールのビンをラッパしながら、シャキン、シャキン、と軽快に俺の髪を切りそろえていく。「俺ァ他人の髪なんて切ったことねーぞ」と言っていた割には、ずいぶん楽しそうだ。 「アシンメトリーにしてくれ。」 「俺に高度な技術を要求するなっつったろーが。」 「高度じゃねーよ。ほら左側こんくらいまで切って。」 指で示すと、ギアッチョは驚いた風に「そんなに切るのか」と言ったけど、ためらいもなくすぐにハサミを入れてしまった。ぱさり、と大量の髪が新聞紙の上に散ったのを見て、思わず笑ってしまった。コイツのこういうところが、俺はとても気に入ってる。 まるで小さな太陽のなかにいるように、暖かな日だった。窓からの風がときおり前髪を揺らすのと、後ろ髪から伝わる、ショキン、ショキン、という振動が心地良くて、眠ってしまいそうになる。 ギアッチョは時々ビールをあおりながら、好き勝手にハサミを動かしている。最初はしぶっていたくせに、今じゃ完璧に人の頭で遊んでやがるな。まぁ俺から言い出したんだし、多少遊ばれたってかまやしないけど。 ぼんやりとそんなことを考えていたら、後ろからギアッチョが声をかけてきた。 「おい寝るんじゃねーぞ。」 「寝てねーよ。考え事してた。」 「何を」と聞かれたので、「ギアッチョになら遊ばれてもいいなあ、って」と答えたら、間髪居れずに脳天をはたかれた。 「丸刈りにすっぞテメー!!」 「だめだなギアッチョ。俺たちギャングはアレだぞ、『丸刈りにする』って思った時には…あー……何とかッ!」 「何とかってなんだばか!」 そう言ってギアッチョが声をあげて笑うので、俺も「忘れた!」と言って、それからバカみたいに笑った。 いい感じに頭もカルクなってきたので、そろそろ鏡を見せてもらおうと思う。万が一見られねぇような髪型にされてたら、高級リストランテのディナーで手を打とう。とてもいい陽気の、真夏日の朝だった。馬鹿笑いする俺とギアッチョの影が、陽だまりの中に揺れている。 -31さんへ!相互リンクありがとうございました! |