キスをしながら喋るなとギアッチョはいつも言う。ヨソ見もダメ。手で身体をなでまわすのもダメ。ただし腕を回すのはいいらしい。


基準が全く分からない。




「ン、ギアッチョ。」
「ちょい待てメローネ。テメー今日夜何食った。」


キスをねだったら、そんなくだらねぇ理由でお預けくらうんだからこっちはたまったもんじゃねえ。拒絶されたって身体はもう求め始めているので、早くコトに持ち込もうと、正直に「日本食レストランに連れてってもらった」と話すと(誰に、かは言わなかった、そのあとしたことも、もちろん)、案の定ギアッチョは顔をしかめて俺にこう言った。


「俺はよォ〜〜〜、あのスシっつーのが嫌ェなんだよ〜〜。なんで魚を生で食うんだァ!?普通煮て食うもんダローがよーーーー魚ッツーのはよォーーーーッッ!!あんなもん臭くて生でなんか食えるかっつーのよーーーーッッ!!てめー今日スシ食ったんなら俺に近づくんじゃあねえぞ!!ファックもナシだ!!帰りやがれ魚臭ェ!!」


目を吊り上げて、今にも俺に殴りかからんばかりの勢いだ。


(…ベネ。)


俺は顎を少し上げ、目を細めてニヤリと笑うと(ギアッチョは俺のこのカオを一番気に入っている)、ギアッチョを口説きにかかる。
彼は難攻不落ではない。
ただギアッチョは駆け引きをしないので、俺はいつも幸せな気持ちになる。他の誰を口説く時とも違う。比べることなんてできねぇな。




「怒っている顔がセクシーでとても好きだ。」


言い終わるか否かの瞬間、ギアッチョの拳が俺の右目に直撃した。少しよろめいて、視界の端にギアッチョが次の拳を繰り出すのが見えた。眼光。空を切る拳。ディ・モールト……。


「夢の話をしよう。」


強烈なボディーブロー。腹に入った時、少し足が浮いた。手加減ねぇな。


「夜のネアポリスは美しかった。まぁ夢の話さ。たくさんの魂が幾筋も空へ立ち昇り、夜空で輝く星になる。沢山の白い軌跡。大きな船が空に昇る。ナイトクルージングだ。取り残された身体は途方にくれる。ただ、空を見上げるととても美しかった。皆死んでいった。星は輝く。既に死んでいるものこそが、一番新しく、美しく。」




そこまで喋ったとき、強烈な一発が顎に入って、ふらついた。上手く立てなくなってる。どうやら足にキたらしい。
再び殴りかかってくるギアッチョの、拳を俺は手のひらで受けると、ああ、温かいな、好きだ、と思った。


「まだしてえとかほざくか。」
「したいね。スゴクしたい。」
「意味のわからねぇ話しやがって。」


ギアッチョが拳を下ろした。ギリ、と歯ぎしりの音まで聞こえてきそうなカオだ。
怒り、という感情。矛盾へのジレンマ。破壊する衝動。
それは全て彼の美点だ。


「俺がみた夢は本当に美しかったんだ。俺はアンタとファックしたい。今すぐに。」


自分で思った以上に真剣な声が出たことに驚いた。
ギアッチョは怪訝そうな顔をして、舌を打ち、ため息を吐くと、「魚クセェやつ相手に勃つかよ、ボゲが!」と言ったけど、ベネ、決着はついた。舌なめずりをする。



ギアッチョのことは全然理解できない。ギアッチョだって俺のことなんか分からねぇだろう。
俺たちは二人とも、とてもわがままで自分勝手だ。そしてとても幸せだ。
なぜなら自分達が孤独だと知っているから。


「大丈夫。あんたがどうすれば俺を美味しく食べられるのか、俺はディ・モールト良く知ってる。」


俺は笑って、また殴りかかってきたギアッチョと二人でフローリングの床に倒れこんだ。
二匹の獣のようだ。気絶しそうに激しいキスの途中で「ベリッシモ、イイ」と呟いたら、ギアッチョは腹を立てて俺の唇を噛み切った。
ベネ。最高じゃあないか。一つになれないということは、こんなにも素晴らしい。




















Last night


I was dreaming.


Spirits all were


flying.





























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