海沿いの道は午後になると風が変わる。
潮風を受け、右手に海を見ながら、赤いオープンカーはハイウェイを軽快に南へ下ってゆく。




あれもこれもとゼネラルストアで買い込んでいたら、痺れを切らしたギアッチョが、早くしろとクラクションを鳴らしたので、急いで会計を済ませて車に飛び乗る。俺が助手席に座るのとほぼ同時に車が発車したので、あと一分遅かったら本当に置いていかれてたかもしれない。
ゼネラルストアで買ったターキーサンドをほおばっていると、横合いからギアッチョが、俺の分も寄越せと言ってきたので、ギアッチョのBLTバーガーを渡す。ギアッチョは口で器用に包み紙を開けると、片手にバーガー、片手にハンドルを切りながら、指先でトントンとリズムをとった。


ギアッチョが珍しく機嫌がいいのも頷けるほど今日はいい天気で、海岸沿いに並ぶ防砂林の大きな葉を透かして、はじける泡のような陽の光が降りそそぎ、あおぞらはまるで水晶みたいにその光を反射する。
潮気の混じった風が髪を煽るので手早くひとつにまとめると、それを横目でみたギアッチョが感心したように、うまいな、と言った。




走りに行こうと言い出したのはどちらだったかよく覚えていない。
そろそろ夏だな、とどちらかが言い出して、観光客が増えるからウザイと確かギアッチョが憤慨し、人が増える前に海行きてぇなという話になって、ギアッチョの車がこうして海岸線を下っているというわけだ。
よく考えたら海に泳ぎに行くにはまだ早すぎるシーズンだったが、つまるところ天気のいい休日にどっか遠出する理由が欲しかったのだろう、俺もギアッチョも。




バーガーを食べ終えたギアッチョは、くるくると包み紙を丸めて俺の方へ投げて寄越すと、そのままカーラジオのスイッチを入れた。丁度イギリスの有名なロックバンドの曲が終わったところで、DJが次の曲の説明をしている。


「日本の曲だってさ。」
「へえ。」


ラジオから流れてきたのはへたくそな英語だったけど、歌ってる歌詞は悪くなかった。ビーチへ行く約束をしたんだ それはとても気持ちのいい時間 白ウサギが跳ねている波に乗って


「どこまで行くの?」
「さあな。好きなとこに行くさ。」


そう言って海辺のゆるやかなカーブを曲がるギアッチョが、なぜだかとても愛しくなったので、身を乗り出して頬にキスをした。
ギアッチョは光の速さで頬を押さえながら、目を見開いて俺をふり返ったけど、その顔があんまり真っ赤だったもんだから、俺は声をあげて笑ってしまった。
カーラジオからは異国のポップ・ソングが流れてる。
ボクらは話して ボクらは笑って バカバカしい? 無駄な時間?




ルーフも窓も全開にして海岸線を南に下る。さっきより少しだけ荒っぽい運転に「怒ってる?」と訊ねたら、「…分かれよ、バカ野郎」とまだ赤い顔で返された。


ハイウェイは続いてく。日曜日の午後、右手にスパンコールの海を見ながら、カーラジオの音楽に乗って二人でビーチに行くんだ。
ボクは夢を見る 君も夢を見るよ ボクは飛べるのさ 急がなくちゃ
太陽が眠りにつく前に
















サンディ・ビーチ





























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