その指先の動きひとつで、俺を意のままに操ろうとする。




間接照明の頼りない灯りに照らされて、しなやかな腹の筋肉が薄く波打っている。女のものとはまるで違う身体だったが、指通りのいい柔らかな金髪と、上等の絹に手をすべらせているような白い肌の感触は、プロシュートが男であるからこそ意味があるのだと思う。
そういえば、「女を抱くみてぇに俺を抱いたら承知しねぇ。」と言われたことがあった。


「何ぼーっとしてんだ。」


俺が考え事をしていたのが不満だったらしいプロシュートは、俺の髪を掴んで無理やり自分の方を向かせた。乱暴なのもいつものことだ、いまさら気にはしない。
「みとれてたか」と冗談ぽく言うのに、「いや」と返すと、プロシュートは眉根をよせた。


「世辞のひとつも言えるようになっとかねーと、上との折り合い悪くなるぜ。」
「…今は関係ないだろう。」


よく動く口をbaccioで塞ぐと、すぐに瞼が閉じられる。長い睫が柔らかな棘のように肌を刺すので、むずがゆくて何度も角度を変える。まるで上質のブランデーの中にいるようだった。息も継げないbaccioと、間接照明の灯りが琥珀色にプロシュートの身体を照らすせいだろうか。
唇を離すと、金色の睫がゆっくりと瞬いて、その奥の青い目が俺に行為の続きを促す。まるで獣のようだった。言葉もなく、視線だけで分かり合うサイン。


「…お前はいつも俺を思いのままに操ろうとする。」
「違うだろ。あんたが俺に『操って欲しい』と思ってるのさ。」


そう言って愉快げに笑うと、ゆっくりとクッションに背を沈める。視線で獲物を捕らえ、しなやかな人差し指をクイ、と曲げて、その動きひとつで俺を誘う。
密林の奥に分け入るように、誘われるままなめらかな身体に唇を這わせた。逃げられないし逃げるつもりもない。孤高で誇り高い獣がどうすれば喉を鳴らすのか、俺は知っている。












貌の獣





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