「噛めばいい。ねぇ、噛めばもっと感じるだろう?」


ふざけるな、と俺はメローネの顔面に一発見舞った。むかつくぜ。くっつくんじゃあねえ。
何度言ってもメローネは、人差し指を口元に当ててチェシャ猫のように笑うばかりで、またのっしと俺の上に乗っかってきやがった。


「チョーシこいてんじゃあねーぞこのボケがッ。」


服をたくしあげられて、素肌に噛み付かれそうになったので、ボコンと音をたててまた殴った。メローネは後方によろけて、倒れそうになりながら、左手で腫れ上がった頬を押さえた。まだ笑っている。


「いいんだ。」


メローネはそれこそ猫のように、俺の身体の上に身を滑らせて囁いた。素肌と素肌が触れる。
なまぬるい。胸。腕。ゆび。震える声。コイツと出会って知った感覚。
何故メローネは笑っているのかということ。


「俺は殴られていいんだ。殴られている間、俺とギアッチョは、とても強く深く繋がっているはずだろう?どんなときよりも深くさ。」


用意していた拳を、俺は振り下ろすことができなかった。
メローネの笑顔は相変わらずクソムカツク、うさんくせーモンだった。
俺たちは悲しい生き物なのか?




メローネはとうとう俺の肌を噛んだ。
歯の感覚。吐息。舌。舐めると早くなる鼓動。
俺はコイツのように笑うことができない。ただ、深く深い何かが、俺の奥底から、寂しくたゆたい、冷たく満ちてゆくのが分かったので。


声を出さないのは最後の意地だった。振り上げた拳は全部、キスに変わってしまうだろう。














ヤサシミノオリ



-070803
報われない準備をしよう。優しく、哀しく。
































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